かって、読売ジャイアンツが9連覇を成し遂げたときの監督、川上哲治さんが現役の頃に「ボールが止まって見える」という話をしたというのは、野球をする人間にとって有名な伝説です。
果たして本当にボールが止まって見えるという事はあるのか、バッターが投手の投げたボールを捉える原理について分析してみたいと思います。
私が打席でボールが止まって見えた経験
私は野球選手としては三流以下の、箸にも棒にも引っかからない、その辺にいくらでもいる中学、高校での野球経験者ですが、それでも、学生時代、2回打席でボールが止まって見えたことがあります。
もちろん、私の目の動体視力が優れていた訳でもなく、特別なことをした訳でもありません。
その時の状況を説明すると
1回目は中学生の時の練習試合のことでした。
相手投手はアンダースローながら結構、高速球を投げる注目の投手でした。
私がバッターボックスに立った初球、真ん中高めの絶好球が来ました。
ただ、その時は初めての対戦で、アンダースローから浮き上がるように高めに来るボールに手が出ず、簡単に見逃してしまいました。
ただ、心の中では
「うわっ、絶好球見逃してしまった、もう二度と同じ球は来ないよな」
と心の中で悔しがりました。
ところが、
こちらが簡単に見逃したので、カウントを取るつもりだったのか、たまたまだったのかは分かりませんが
第2球目も全く寸分違わぬ同じ球速、コース、高さ、球道で真ん中高めにボールが来ました。
その時、一瞬ボールが止まっているように見えました。
思いっきりフルスイングして、打球はライナーでセンターオーバーのエンタイトルツーベースになりました。
2回目は高校の時の新人戦
この時も真ん中高めの初球を何気なく見逃してしまいました。
「しまった、絶好球を見逃して惜しいことをしてしまった」と、その球道が目に焼き付いていた直後
こちらが簡単に見逃したので同じ球でカウントを取りに来たのか、たまたまだったのか分かりませんが、この時も2球目に初球と全く同じ球速、コース、高さ、球道のボールが来て
そしてこの時もボールが止まって見えました。
そのボールめがけて満身の力を込めて振り抜いたところ、センターの頭を越えるライナーでフェンスまで転がり3塁打となりました。
なぜ三流以下のバッターだった私にボールが止まって見えたのか
川上哲治選手のような超一流選手が、ボールが止まって見えたという話と、私の目にボールが止まって見えたという話は、全くレベルの違うたまたまの経験ですが、今から考えると、共通する部分があるように思えます。
というのは私の経験は2回とも、2球続けて、同じ球速、コース、高さ、球道で(かつ棒球だったというのもありますが)しかも自分にとって絶好球を見逃した直後(おそらく10~20秒後)だったということが挙げられます。
自分としては絶好球だったその前の球筋がしっかり頭の中に残っている。
その時に全く同じ球がリプレーのように投げ込まれてくれば、そのボールがどのように、ホームベース上のどの位置を通るか、瞬時に頭の中で計算して、・・いや計算するまでもなく、ボールが通る道を予測することが出来てしまったのだと思います。
要は答えが分かっている試験の問題のような物で、目も余計な動きをする必要はなく、あらかじめ予想できる軌道の上を追従するだけで良くなり
脳も、球の動きから未来位置を計算する必要が無く、予測通り球が移動しているのを、十数秒前の記憶と照らし合わせて確認するだけで良い
となると目も、脳も投げ込まれた球を見る事に集中できる。
→ボールを見るということだけに、目も脳も全力を挙げている
→いつもより容易にボールを捉えることが出来るのでボールが遅く見える
→止まって見える
ということに繋がったと思います。
これが、川上さんなどの超一流のプレーヤーが球が止まって見えるのとどう繋がるかというと
野球の超一流のプレーヤーは動体視力が優れています。
ただし、単に動体視力が優れているだけではなく、ボールを瞬間的にしっかり捉えて、ボールの位置や状態を見極める瞬間視の能力
そして、瞬間視によって正確に捉えたボールの位置とその次の瞬間に捉えたボールの位置からボールの軌道を素早く頭の中で計算して・・・
計算というと誤解を招くかもしれません
もしかしたら頭の中でボールの軌道がイメージとして描かれるのかもしれません。
一流選手は、瞬時にボールの未来位置を予測して対応するので、単に凡人より、動体視力や身体能力に優れているだけではなく、余裕を持って、ボールを捉えているのだと思います。
つまり
・瞬間視に優れていて、しっかりボールのその瞬間の位置や状態をしっかり捉える
・過去のボールの位置から未来のボールの位置を素早く予測する。
これがスムーズに出来る事によって、目が余裕を持ってボールを追うことが出来
→ボールがどのような動きをするのかをつかむための脳の働きにも余裕が出てくる。
→目も脳も、ボールを追うことだけに全力を集中できる。
→ボールの動きを容易に追跡できる
→ボールが遅く(止まって)見える
ということに繋がるのではないでしょうか。
バッターが投手の投げたボールを目で捉える原理
目に映っているのは切れ目がない画像ではない
投手が投げたボールをバッターはどのように目で捉えているのでしょう。
ずっと目で見ていますから連続した出来事のように考えがちですが、人間の能力はそれほど高くはありません。
例えばテレビの映像は毎秒30コマの静止画を流しているだけですが、人間の目にはスムーズに動いているように見えます。
投手の投げる速球も、目の網膜には映っていますが、脳がそのデーターを全て処理している訳ではありません。
目に映った情報が全て脳内で処理されている訳ではない
バッターボックスに立っているときには、投手の顔や、センターバックスクリーン、グランドなども見えているはずですが
いざ、投手が振りかぶってバッターボックスに立っているあなたに投球してきたときには、あなたの注意はほとんど投手の指先やボールに注がれると思います。
とはいっても、ボールの周りのグラウンドや場合によっては野手などの姿も微かに視界に入っているかもしれません。
ボールを見逃してホームベースの上を通るときにはボールだけでなく、ホームベースやグラウンドの土なども見えていると思います。
ただし、それらの画像はかなり大雑把な画像のはずです。
投手の投げた球も、常時クリアな画像であなたの脳の中のスクリーンに映し出されている訳ではないはずです。
目の焦点が合った要所要所ではクリアなボールの画面が脳に入力されているでしょうけど
それ以外のポイントではかなり省略されたボールの画像が脳内のスクリーンには映し出されているはずです。
瞬間視が優れていないとボールの未来位置を正確に予測できない
この時重要なのは、瞬間視の能力が優れていないと、自分ではしっかり見ているつもりでも、実際にはしっかり目にボールを捉えていないので、言葉は悪いですが、大げさにいうと漠然となんとなくボールを見ているという状態になります。
逆に瞬間視に優れている人はクリアにボールを捉えています。
そして、ボールをクリアーに捉えているので、ボールのコースやスピードの予測も正確になります。
正確にボールの未来位置が予測できるということは、それだけ楽に視線の移動も出来ます。
となれば、次に視線に捉えたときにもより鮮明にボールを捉えることが出来ます。
逆に瞬間視の能力が悪ければ、正確に未来位置を予測できないので次のポイントでは広い範囲に焦点を当てる必要があり、ボールはさらに捉えにくいという悪循環が始まります。
未来位置の算出能力も重要
ボールに対する瞬間視が正確であれば、次の予想位置への視線の移動が容易になるのですが
この時、予想位置の算出が遅いと、視線の移動が遅れてしまいます。
算出といっても何か数学の計算をしている訳ではなく、直前のボールの移動の状態(コース、スピード、ボールの位置)から次にボールが通過するであろうポイントを無意識のうちに予測する時に、人間の脳の中では何らかのデーターの処理が行われています。
極端な話ですが、運動神経は優れているけど全く野球をやったことが無い人に平凡な飛球をキャッチさせてみると、大概は落下位置が予測できずに捕球できない事が多いと思います。
野球を長らくやっている人であればボールのスピードや方向から、瞬時に正確にボールの予想位置を頭の中で、ごく当たり前に算出しています。
話をバッティングに戻すと、守備の時以上にバッティングにおいては、投手の投げたボールのスピードやコースを瞬時に把握して、未来位置を予測する必要があります。
この計算(予測)が早くできる人ほど、余裕を持って目の視線を未来位置に移動させることができ、そのことでより正確にボールを捉えることが可能になります。
バッターは瞬間視と未来位置の予測でボールを目に捉えている
これまでの話をまとめると
バッターは瞬間視によってボールの位置を把握する。
過去のボールの動きを頭の中で計算してボールの未来位置を算出する。
未来位置に素早く視線を移動させることで、更に正確にボールの軌跡を把握する。
→ボールをヒッティングするか見逃すか決定する。
→ヒッティングする場合は、ボールの未来位置に向けてバットをスイングする
→ボールと予想位置の誤差を見ながらバットコントロールする
という一連の動きになります。
ビジョナップは瞬間視とボールの未来位置の予測能力を鍛えるツール
動体視力トレーニングメガネのビジョナップは、光学的なシャッターを、高速で開け閉めすることで、瞬間視とボールの未来位置の予測能力を鍛えるトレーニングツールです。
ビジョナップ
光学的なシャッターで、断続的にしかボールを見えない様にすることで瞬間視を鍛えるという点については別記事で解説しています。
野球の打率を上げるなら瞬間視を鍛えないと、トレーニング効果は上がらない
ビジョナップは、シャッターが降りている瞬間には視界がさえぎられ、ボールが見えなくなるために
次にシャッターが開いた瞬間に素早くボールを視界におさめるためには、限られた視界情報を高速に処理して、未来位置を予測しないと、ボールの動きに目が追従することが出来ませんから
トレーニングを続ける内にボールの未来位置を予測する能力も鍛えられることになります。
動体視力トレーニングメガネ、ビジョナップの使い方を仕組みから解説
まとめ
たまたま連続して全く同じボールが投げられたことで、ボールが止まって見える経験をしました。
ボールの未来位置が正確に予測できれば、限られた目の能力をボールを見る事に集中する事が出来、余裕を持ってボールを見る事でボールが遅く(止まって)感じられる事になります。
投手の投げたボールの未来位置を正確に予測するためには、瞬間視を鍛え、正確なボールの位置や状態を瞬時に把握できるようにして
さらに、ボールの未来位置を短時間の内に予測できるようになることで、視線の移動が容易になり、ボールをしっかり目で捉えることが可能になります。
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