野球の打撃に動体視力は関係ないという人が時たまいますが、そんな訳はないですよね。
速い球でも、しっかり目で捉えられれば、それだけ正確にバットの芯にヒットすることが出来るし
ボール球は見極めて見送れば、それだけカウントでも有利になります。
しかも、打撃の成績が良い選手と、守備の成績が良い選手を比べたら、打撃の成績の良い選手の方がレギュラーになりやすいのではないでしょうか。
そこで、野球の打撃と動体視力の関係について解説してみたいと思います。
野球の打撃の時にバッターはどのようにボールを見ているか
ここでは野球の打撃理論ではなく、純粋にバッターに向かって投手が投げたボールをバッターはどのように目を使ってボールを見ているか分析してみたいと思います。
遅いボールなら、連続して目で追える
仮に高校野球レベルを想定した場合、120kmくらいのボールであれば、かなり連続して目で追えるはずです。
ところが、普段慣れていない140km代の高速球をいきなり投げられた場合、普通の選手はなかなか目が追いついていかないと思います。
多分この時に、バッターが捉えている野球のボールの映像は極端に言うと
・ピッチャーが投げた瞬間
・マウンドからバッターボックスの中間くらいの所
・自分の前を通り過ぎた瞬間
このくらいしか、ボールを目で捉えていないはずです。(全く目がついて行っていない場合)
この時のバッターの目と脳の動きを分析すると
・ピッチャーがボールをリリースする瞬間は当然、目で捉えているはずです。
そして、次のボールの未来位置(予想地点)に視点を移したところ、既にボールは予想地点を通り過ぎていて焦点を合わせることが出来ない
慌てて、その次の予想地点に焦点を合わせようとするものの、既にボールは通り過ぎている。
やむを得ず、マウンドとバッターボックスの中間地点辺りに視点を移すと、何とか、ボールがその地点付近を通り過ぎたのでボールの焦点が合った
しかしその後も、同じ事の繰り返しで、ボールに焦点を合わせることが出来ず
次に目の動きが追いつくのが目の前を通り過ぎた時くらいという事になります。
これはちょっとオーバーな例かも知れませんが
高校野球なら普段のフリーバッティングで打っている球の早さはせいぜい120~130kmくらいですから、140km代になるとなかなか目がついていきません。
このことをもう少し、目と脳のメカニズム的に解説すると
人間の目や脳にも処理速度の限界があります。
高速で動く物(野球のボール)に常時焦点を合わせていることは困難ですから、一旦ボールに焦点を合わせたあと、瞬間的に少し焦点を移動させます。
この移動させる地点は、脳がそれまでのデーターを処理してボールの未来位置を予測してその予想地点に移動させます。
当然、その位置には微妙にずれがありますから、脳はそのずれを修正して計算して、次の予想位置を計算して、目の焦点を再び移動させます。
バッターがピッチャーの投げたボールを目で追っている時にはこの連続になる訳ですが、ピッチャーの投げたボールのスピードが普段慣れているスピードよりかなり速い場合
予想位置と実際のボールの位置のずれが大きく、焦点を合わせられない
→ボールがよく見えない(視点に捉えられない)
→ボールの正確な位置が分からないので次の予想位置は更にズレる
→ボールを視界に捉えることが困難
→ボールを目で追うことをあきらめて、ずっと手前でボールを待つ
→一瞬、ボールを目で捉えられるけれどその後は同じ事の繰り返し
ということになります。
目の物理的な動きと、脳の計算について
野球のバッターがボールを目で見て、その状態を見る時、2つの面で動体視力の能力を考えてみる必要があります。
一つは、目の物理的な能力
・水晶体を膨らませたり縮めたりして前後の焦点距離を合わせる能力
・目の周りについている外眼筋によって目玉を動かして、ボールのある方向に眼球を動かす能力
この二つの目の物理的な動きを素早く出来ることで、動体視力が上がります。
ただしこれらは生体の反応ですから、ある程度物理的な限界があります。
もう一つ動体視力を決める能力
それは、脳が、動いている物体の動きのデータを素早く処理して、動いている物体の未来位置を計算して、素早くその未来位置に目の焦点を移動させる能力です。
目は完全に連続的に動いている物を捉えている訳ではありません
例えばテレビの画面は1秒間に30コマの静止画を写しているだけですが、人間にはスムーズに動いているように見えているということをご存じだと思います。
逆に言えば人間の脳は、目から入ってきた、いくつかの連続した静止画面を頭の中で再構成して、その動きを脳の中で再現しているだけだと言えます。
ですから、人間の動体視力は単なる目の物理的能力(焦点を素早く移動出来る能力)だけでなく、脳の中で行われる画像処理がいかに効率よく出来るかということも動体視力を高めることに関係があるということになります。
野球のイチロー選手が実は、静止視力は余り良くないのに、動体視力がずば抜けていると言うことは、目の動きだけでなく、頭の中で処理されている動く物を捉える画像処理が高速だと言うことが関係しているはずです。
バッティングセンターの高速球は慣れるとなぜ打てるようになるのか
バッティングセンターの中には140km代とか150km近くの高速球が打てるところもあり、そういう所でバッティングをしたことのある人もいるでしょう。
経験のある人なら分かると思いますが、はじめて高速球に出会った時、大概の人はボールの速さについて行けず、ボールもよく見えないので、当てずっぽうにバットを振って空振りを繰り返したことがあるでしょう。
そこであきらめる人もいますが、多少なりとも野球をやったことのある人なら、悔しさもあって、何回か通って、何とかバットにあてることが出来るようになり、そのうちに、それなりに高速球を打ち返せるようになった人もいるのではないでしょうか
どうしてか
数回バッティングセンターに通って、高速球を何十球か見たぐらいで、目の物理的な動体視力(水晶体や外眼筋の反応)が、画期的に向上するということは考えられません
どうして、高速球に対応出来るようになったか
「慣れだよ」という人がいるかも知れません
確かに、ボールが来るタイミングが分かってくれば、当てずっぽうでもバットを出せば、ある程度、まぐれでボールがバットに当たることがあるかもしれません
でもそれだけで高速球をそれなりの確率で打ち返せるはずはありません
じゃあ
「目が慣れてきただけでしょ」
ということも考えられます。
その目が慣れてきたということはどういうことでしょう
単なる慣れというような話ではなく、もう少しメカニズム的な話をすると
例えば140kmのスピードに慣れると、ボールの予想位置の計算にも脳が慣れてきます。
自分の目の物理的な能力から逆算して、どの辺りに焦点を移せばボールの移動に目の筋肉が追従出来るか計算して、その位置に焦点を移動させる事になります。
最初はそれでもなかなかタイミングが合わないでしょうが、何回も140km代のボールを観ているうちに、視点を移動させるタイミングが分かってきます。
となれば、それなりに球筋が見えてきますから、高速球のボールに追従してバットを当てることが出来るようになってきます。
ただしこの時、例えばの例ですが
120kmのボールが、バッターの前をボールが通り過ぎるまで
バッターは仮に20回、ボールを目で捕らえた画像を脳の中で処理しているとすれば
140kmのボールの場合は15画面くらいの画像を処理していることになりますから、打撃の確率は多少低くなる可能性があります。
(画面の回数に根拠はありません、例えばの例です)
(視点を移動させる目の筋肉などの能力は一定だとすれば、高速で接近してくるボールに焦点を合わせられる回数は少なくなります)
動体視力が良いとなぜ打率が上がるのか
動体視力が良ければ、投手の投げたボールがよく見えて、打率が上がるのはあたりまえの様な気がしますが、このことを否定する人もいるので敢えて説明します。
ボールがよく見えれば正確にバットの芯で捉えられる
これまで説明したとおり、動体視力は単に目の焦点を素早く移動させたり、高速で移動するものを視野に捉える能力だけでなく
ボールの未来位置を素早く計算して、その位置に視点を移動させることも大切です。
逆にいえば、ボールがよく見える=ボールの未来位置の予測(脳内における計算)が正確に出来るという事でもあります。
そういう能力が高いということは、投手が投げたボールがバッターのミートポイントを通過するタイミングも正確にとらえられるということになります。
そもそもボールがよく見えていないということは、目をつぶってバットを振っているのと同じです。
変化球にも対応出来る
直球であればタイミングを合わせるだけでも、それなりにボールを打ち返すことが出来ますが、変化球に対応するためには、ボールの動きが見えている必要があります。
動体視力が良ければ、それだけボールの変化を見極めて、正確にミートポイントにバットを出すことが出来ます。
ボール球に手を出さない
ボールがよく見えていればボール球に手を出すことはありません
時たま頭の上を通るようなボールに手を出すバッターがいますが、当然ボールが見えていませんし、
ワンバウンドするフォークボールを空振りするのも、ボールの変化に目がついていってないことも大きな原因です。
(そもそも速球に目がついて行っていないために、この辺りにボールが来るだろうとバットを出してしまうことも原因)
ボール球に手を出すことがなくなれば当然バッターが有利なカウントで勝負出来ますから、打率も上がることになります。
打てない選手はレギュラーになれない
よほどの野球の一流校なら打撃も守備も良くなければレギュラーになれないということがあるかもしれませんが
それでも、多少、守備に難があっても、打撃が良ければ外野やファーストに回す場合もあります。
(外野やファーストは守備が下手だということではありません<(_ _)>)
逆にいくら守備が上手でもバッティングが、全く振るわない選手であれば、せいぜい守備要員で、試合の終わり頃に守備固めとして出場するぐらいしかありません。
やはり、野球のチームでレギュラーになろうとすれば打撃の成績を良くするしかなく、その為には動体視力を上げることが一番効果があります。
バットスイングの練習はもちろん大切ですが、何千回素振りをしても、動くボールを捉える能力は向上することはありません。
動体視力を鍛える方法
スマホやパソコンの動体視力トレーニングアプリを使うのはNG?
この方法は余りおすすめしません
というのは、動かない平面(2次元)のしかも、ものすごく小さな画面の中の動く物を捉える訓練をしても、効果が限定的な上に、視点自体は動かすことなく、ものすごく目に近いものに焦点を合わせたままの状態ですから、
へたをすれば、視力が上がるどころか、視力を悪化させてしまう可能性があります。
動いている物を見る
これはよく行われるトレーニング方法です。
電車や自動車の中から外の物を見て、動体視力を鍛える方法です。
例えば電車の中で通り過ぎる電柱にタイミングを合わせたり
書いてある看板の文字を読み取る
逆に道ばたなどに立っていて走ってくる車のナンバーを読み取る訓練など
ただしこの訓練の限界は、動いている物のスピードがせいぜい40~100km程度で
野球でいえば、超スローボールピッチャーという事になります。
動いている物を見ることで多少外眼筋や水晶体のストレッチぐらいにはなりますが、効果は限定的です。
投手の投球練習の時にバッターボックスに立たせてもらう
練習の合間に投手の投球練習にあわせてバッターボックスに立たせてもらい、投球されたボールを見る訓練を行います。
効果的ですがなかなかチャンスが無いのが難点です。
みんなが練習している最中、ピッチング練習場で、ボーッと立っている練習って、ちょっと気が引けますよね。
バッティングマシンで高速球を打つ
この方法は、実はあまり効果はありません。
速い球を見ることで、多少動体視力(外眼筋や水晶体の反応を高めるなど)を向上する効果はありますが
前の方でバッティングセンターで140kmの球を打つという所で説明したとおり
「慣れること」
140km代の球に焦点を合わせるタイミングに慣れることで140km代の球を打ち返すことは出来るようになっても、動体視力(画像を処理する能力)自体が上がる訳ではないので
例えば、私みたいなセンスの無いバッターが140km代のボールに慣れたあと120Kmくらいの普通のボールを打とうとすると、
今度はボールが遅すぎて、なかなか焦点が合わないということになります。
(高速球のタイミングに慣れて視点が早く前の方に移動しすぎる)
動体視力トレーニングメガネを使う
現在、存在する動体視力トレーニングメガネは1種類だけです。
その仕組みは
メガネについている光学的なシャッターを連続的に開け閉めすることで、ボールを断続的にしか見えなくして(ストロボ画像のような見え方)
動体視力を鍛えるものです。
視界を断続的にさえぎることで、ボールが動いている情報を一定割合で遮断し、ボールが見えた時に瞬間的に焦点を合わせる訓練をすることで、目が焦点を合わせる能力を鍛えること
また、、ボールが見えない瞬間があることで、ボールの未来位置を脳の中で計算する能力を高めるという二つのトレーニング効果を期待するものです。
電車の中から外を流れる風景を眺めたりスマホアプリで動体視力トレーニングをするよりよほど効果があるのではないかと思います。
動体視力トレーニングメガネの詳しい仕組みについてはこちらからどうぞ
動体視力トレーニングメガネ、ビジョナップの使い方を仕組みから解説
まとめ
野球の選手がレギュラーになろうと思えば、打撃の打率を上げることが一番の近道です。
そして打率を上げようと思えば、動体視力を向上させるのが一番効率的な方法です。
バットスイングの練習を一生懸命やるのも良いのですが、その前に自分の動体視力を鍛える必要があります。
スマホやパソコンの動体視力トレーニングアプリなどではかえって視力を悪くする恐れがありますし、時速100km以下の電車や自動車の車窓を流れる風景でトレーニングしても限界があります。
プロ野球の一流選手などはどのようにして動体視力を鍛えたのでしょう、生まれつきのものなのか、それとも何か特別な方法があったのでしょうか、興味のある所です。
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